意識外で考える
精神科医となって2年ぐらいたった時、20代前半の頃に日本IBMの新入社員研修の中で習ったマルチタスク、マルチジョブというコンピューター用語を思い出しました。コンピューターは同時に複数の仕事・情報処理ができるという意味です。銀行のATMを動かしながら、オフィスではまったく別の事務処理用のシステムが稼動しているというようなことです。人間の脳も全く同様に、もしくはそれ以上に高度に情報処理を同時並行的に行っているのに気づきました。
フロイト流の無意識、潜在意識とも異なる概念と思っていますし、人間の脳・心の働きを現在のコンピューターよりはるかに進歩した情報処理システムとして考えています。例えば人間の自律神経は全身の内臓、血管、皮膚など広範囲に関連していますが、危険に遭遇して毛が逆立つ過程をいちいち意識している人はいないでしょう、これも意識外で考えている・情報処理しているということです。自動車の運転も初心者の頃は意識してハンドルを何回転まわすとか、ここでブレーキを踏むなどと考えていると思いますが、慣れてくると意識しないでできるようになります。視覚、聴覚、味覚など人間の感覚器からは常時膨大な情報が脳に入力されていますし、それ以外にもホルモン、血液、塩分・電解質など途方もない量の情報処理を寝ている時もしているわけです。
自律神経はほんの1例であり、意識外で考えている分野は日常生活の全部、人間関係、男女関係、親子関係、職場での関係など数えればきりがないと思われます。「普通の人」はこういう難題を瞬間的に意識外で考え適切に対応している訳です、意識していませんから他者からどうしてそうしたと質問されてもうまく答えられない時もあると思います。その理由を「常識」と考えることもできるとかと思います。逆に人間関係に苦手な人などは、意識してじっくり考えて対応する必要があります。じっくり考えたり、本を読んで勉強したりしますので普通の人よりむしろ知識は豊富ですし、饒舌であるかも知れません。しかし、本当はやっぱり苦手なのです。