電気ショック療法
精神医療の分野で、様々な薬物療法、精神療法、カウンセリング、環境調整、リハビリ的な療育、行政による支援等が実施されていますが速効的な効果という点では、古典的とも言える「電気ショック療法」が最も効果的ではないかと思います。それは人為的にてんかん性のけいれん発作を起こして治療するものですが、一分ぐらい全身のけいれん発作が生じ呼吸も停止するわけですから、精神科医にとっもあまりやりたくはありません。しかし、幻覚妄想状態で著しく興奮している方、自殺願望が著明で今にも自殺する可能性の高い方などにはとても効果的な治療法であり今でも現役です。
もちろん当院では実施していませんが、自分も荒尾保養院勤務時代はたびたび実施していました。聖マリア病院の精神科部長、副院長を歴任された新垣安亮先生より直接御指導いただき、その実施方法、適応を勉強させていただきました。最近は大学病院等で「無けいれん性電気ショック療法」が実施されていますが、手術室で麻酔科医の管理下のもとで行われますので、現実一般の精神科病院では実施困難です。コストもかかり、効果はむしろ従来の電気ショック療法より劣るのではないかと思っています。
しかし、古い精神科治療でありますので健康保険上の金額はなんと1500円です。呼吸も止まり、実施する医者もかなりの緊張を強いられるわけですが、その対価はなんと少し高めのランチ一回分です。これでは若い精神科医が尻込みするのも仕方ないかと思います。厚生労働省がもう少し電気ショック療法の効果を認め、健康保険上もっと妥当な評価をして、今よりも実施しやすくすることが患者さんの利益にもなると思います。
現在の精神科医療は他の診療科とは異なり、残念ながら日進月歩ではなく、特に人格上の障害・問題に関しては数十年前と治療効果という点ではほとんど変わりません。もちろん、うつ病や統合失調症においては薬物療法が効果をあげています。しかし精神疾患は治癒しないと一般の方も思っていますがあながち誤りではありません。現在の薬物療法の次世代の治療法として、遺伝子治療等今までの発想を変えた治療も考えられますが現時点では空想のレベルです。