最近大手全国紙新聞の特集記事で精神科治療の薬物療法に対するネガティブキャンペーンが繰り返されていました。確かに現在の精神科薬物療法に問題がないとは考えませんが、ただ薬の量が多いということを指摘して非難するのは逆に精神科医療を混乱させているだけです。大手新聞社と言えども社員として精神科医を雇用しているとは思えませんので、どこかの精神科医を取材して記事にしていると思います。これまでこのブログでも繰り返し主張しているように「うつ病はこころの風邪」という先入観を与えた精神科医、マスコミの責任は重大ですが、再び「うつ病の薬は良くない」というイメージを患者さんに与えるという間違がった主張が目立ち、少し怒りを感じました。
もちろん現在の精神科薬物療法で治癒するケースは残念ながら少数派で、うつ病の特効薬は未だ出現していないと思います。だからこそ精神科医と患者さんのやり取りの中で仕方なく薬の種類や量が増えていくケースも少なくありません。ほとんどの精神科医はできることならば薬は少なく、シンプルにしたいと思っています、それができないから結果的に増えていきます。そのことが理解できない精神科医は臨床経験が少なく、直接患者さんを診察しないで机上で勉強している人ではないかと思います。
薬物療法とは別に心理療法、特に認知行動療法が推奨されているようですが、それも対症療法の一つに過ぎません、過大な期待は禁物かと思います。うつ病は心の病気というよりも「脳の病気」と考えるべきです。ならば心臓、腎臓、肝臓等の病気と同じということになりますが、そういう考え方に生理的嫌悪感を持つ人も多いかと思います。しかし、精神科といえども医学の一分野であり、精神科医も医学部を卒業しています、その原点を忘れてはいけません。心理学でうつ病を理解し、治療することは無効もしくは有害なこともあります。厚生労働省は医療費削減のために心理療法を推奨していると疑ってしまいます。
うつ病を「脳の病気」として考えることで、過去のトラウマ、親子関係、養育環境等に惑わされることなく合理的に治療が実施できると思います。うつ病も他の身体疾患と同様に、遺伝、体質、脳細胞、神経ホルモン、先天的原因等を無視できないはずです。これはよく考えてみると当たり前のことです。しかし、実際は精神科領域では医療、司法、行政もほとんど無視しています、だから有効な結果が出ないでいつも心の闇として処理して誰も責任をとりません。実はうつ病だけでなく、他の統合失調症、人格障害、認知症、発達障害等すべての精神疾患も同様です。
うつ病をこころの病気と考えると、特別視し、理解困難なものと考えたりします、これが大きな間違いです。今回は日頃遠慮して発言をためらうことをあえて申し上げました。このような説明をすると無理なくうつ病を理解し、納得して治療を受けることができた患者さんも少なくありません。