精神科医の仕事で大変なのが診断書・意見書等の作成です。特に精神科病院に勤務する精神科医の先生方にとってその負担は大きく、医療保護入院・措置入院(強制的入院)や自立支援法の診断書や、生活保護・介護保険の主治医意見書など日常業務のの何割かを占めるほどです。役所の民間人に対する、書類を書け書け、役所はそれをチェックするだけという基本的認識により提出する書類は増えるばかりで、患者さんの治療にしわ寄せが生じ悪影響を及ぼしていると思っています。最近問題視されている「ドラッグラグ」(日本では新薬承認にやたら時間がかかり欧米と比較して10年位遅れていること)も典型例です。これは医療機関だけでなく全国津々浦々様々な産業で役所と関係する仕事している方の共通の不満とも思います。公務員の存在意義に関わるとても大きな問題と感じています。
それだけでなく精神科疾患において診断書を書く時注意しなければならないのは、発病の因果関係を求められ、しかも金銭的な争いに関係する場合です。不登校のお子さんが学校に提出する診断書は誰も損害を受ける人がいないので書きやすいのですが、誰々のせいで病気になったとか、会社の不適切な労働管理で病気になったから診断書を書いて欲しいと、患者さんから要求されるとこちらも慎重にならざるを得ません。交通事故のように因果関係を証明する事は精神疾患の場合そもそも困難な訳です。ほとんどの場合精神疾患の発病原因は不詳です。精神疾患の関連遺伝子はほとんど解明されておらず、同じようなストレス状況下でも結果は人様々なわけです。よって発病原因、誰の責任と決めるのは極めて難しいのです。
休む必要性の乏しい患者さんから、長期に休めるように診断書を求められる場合や(公務員の方に多いです。)、その逆に休職が必要な方から、復職可能という診断書を求められる時も対応に苦慮します。基本的には患者さんの利益になるように考えるわけですが毎日悩まされているのが現実です。