こころのケアの重要性が毎日のようにマスコミに取り上げられ、インターネット等でも様々な情報が飛び交っています。精神疾患の治療法として薬物療法が飛躍的に進歩し実際効果を上げています。心理療法に関しては現在世界で推定600種類以上あると言われています。
こうした背景の中で心のケアに対する期待が高まるのは当然ですが、日常の診療の中で疑問を感じる時もあります。1回の診察・治療で快復するケースも少なくないのですが、治療困難で症状が慢性化する場合もあります。薬物療法では人格的な問題を根本的には治療できず、心理療法に関してはその効果を科学的・統計学的に証明できるものはありません。
現在心の遺伝子の研究や、情報処理システムとしての脳の研究が進められており21世紀中には画期的な治療法が開発されると思いますがしばらく時間がかかります。人格面での治療の本命が登場するまで治療者が取るべき態度として、心のケアの限界を考慮し、謙虚な姿勢で常識的・現実的に対応することが重要です。つまり治療者自身の人間性・価値観・常識が問われています。
一部の精神科医・臨床心理士には「知識はあるが常識がない」といったタイプの人もいます。自分の流派の主張を繰り返し、治療するどころか逆に症状を悪化させたり、親や家族にも負担を強いて追い込む場合も少なくないと思います。私が主張していることは人格を変えることではなく、その人に合った、その人にふさわしい生き方をすることです。
2004年を振り返ると小学生女児による同級生殺人事件など、精神医学的な考察も必要な出来事が数多く起きたと思います。その都度精神鑑定が実施され膨大な鑑定結果が作成されていますが、心の遺伝子レベルに関する記述はありません。原因論としてマスコミを通じて従来どおりの親子関係・家庭環境・親の養育態度・学校等での心理的要因等が強調されたり、裁判に途方もない時間をかけたにもかかわらず「まだ心の闇、本当の動機が解明されていない。」と主張してさらに審議継続を主張する専門家も多いようですが、そうした考えに納得できない方も多いかと思います。
人格障害(人格上の問題)に関しても身体的な病気と同じように遺伝的な要素が考慮されるべきですが、現在の心のケアの分野では無視されているのが現状です。マスコミによく登場される小田先生や福島先生の解説には納得するのですが、その他の心のケアの専門家の説には疑問を感じる場合も少なくありません。人格上の問題の原因も先天的な要素が大きく、現代医学のレベルではよくわからないことを謙虚に認めるべきです。